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三浦レポート

三浦レポートとは正式には「脊椎原性疾患の施術に関する医学的研究」と呼び、厚生省が科学技術研究費を使って東京医科大学の三浦幸雄教授ら7名の整形外科医に委託した調査研究である。調査は1989年ごろから1年半かけて行われ、1991年3月に答申された。
厚生省はこの報告に基づいて、同年7月ほぼ同内容の行政通知を全国の都道府県衛生部に送った。この報告内容はその後各界からの大きな反響や批判を招いた。マスコミはその後数年カイロプラクティックの危険性を強調した報道を行い、あはき業界は手緩いと強く批判。カイロプラクティック側はこの研究は人選・方法に問題があり、参考文献もない非科学的な「研究」であることを指摘した。

厚生省 平成2年度 厚生科学研究

「脊椎原性疾患の施術に関する医学的研究」

報告書

研究課題

脊椎原性疾患の施術に関する医学的研究

主任研究者

三浦幸雄 (東京医科大学教授)

研究協力者

1.研究目的

カイロプラクティック等の脊椎整体施術の理論の医学的妥当性及び施術における検査手法の医学的有効性、調整術の有効性、危険性等を明らかにするとともに被害例の検討を行い、カイロプラクティックについての医学的評価と考察を行うことを目的とした。

2.研究方法

カイロプラクティック理論の医学的妥当性を検討するため、関連文献の調査を行うとともに、カイロプラクティック施術者より理論や主義に関する意見聴取を行い、さらにカイロプラクティック施術者による実技を体験し見学を行った。また、我が国における被害症例の調査・分析も行った。

3.研究結果

1)カイロプラクティックの理論と療法に関する検討と見解
ア)基本的理論

カイロプラクティックとは、脊椎と骨盤の位置関係の異常を矯正することにより様々な疾患を治療する技法である。その原理は、脊椎が正しい位置から逸脱すると脊椎以外の様々な部位に機能障害をきたすという考え方を基本としている。しかし、これは、医学的病態にもとづく治療理論ではなく、理論というより理念というべきものである。しかもカイロプラクティックでいう脊椎の位置異常と他の疾患との関係については、現代のいかなる科学的方法をもってしても証明されていない。
カイロプラクティックにおいて、理念の中心となる"サブラクセーション"とは、様々な原因によりもたらされる脊椎の関節の異常(変位)であり、主として術者の触診により認知される隣接関節構造の解剖学的、動力学的、生理学的alterationともいわれる。しかし一方では、"サブラクセーション"があっても必ずしも自覚症状があるとは限らないとされている。この"サブラクセーション"は医学用語でいうsubluxation(亜脱臼)とは異なるもので、X線検査等によって証明できず科学的定義は不明確であり具体的、実証に欠ける。更に医学的にみて"サブラクセーション"と愁訴・症状との因果関係を現時点では証明することはできない。

イ)脊椎のみかた

カイロプラクティックでは、問診、視診も行うが、脊椎の触診が重視されている。パーマー系、ナショナル系といった学派によって表現が違っているが慣れた者が行えば、棘突起のみならず乳頭突起、関節突起まで触診するという。そしてmotion palpationという脊椎を動かしながら触診をし、関節可動域の減少、hypermobility、hypomobility (fixation)をみ、その左右差もみるという。また筋の硬結、緊張、膨隆、圧痛も触診するとしている。
しかし脊椎を皮膚の上から触診することは棘突起を除いては難しく、とりわけ乳頭突起の触診は、解剖学的にも不可能である。脊柱彎曲、運動領域はは触診である程度知り得るが、客観性は乏しいものである。また、筋硬結、圧痛等は触診で知り得るが、これが脊椎の位置異常に起因するかどうかは触診のみでは鑑別できない。
本研究班では、カイロプラクティック師による実技の見学も行ったが、施術者により触診法に大きな違いがみられた。診察法、所見のとりかたは人体の解剖学的知識に基づくものではなく主観的、非科学的である。例えば環軸椎の触診、脊椎乳頭突起の触診をしているとは思われず、誤りが多いといえる。また、医学的なsubluxationがあったとしてもこれを触診で診断することは不可能である。他方"サブラクセーション"はX線検査で必ずしも把握できないといわれており、これが実在するかどうかを科学的に証明する手段がない。

ウ)手技(療法)

基本的には脊椎と骨盤に対する徒手調整がカイロプラクティック療法であるが、物理療法、運動療法、更には食事療法も行う者もいる。徒手調整法には様々なテクニックがあるようであるが、瞬間的矯正を行うスラスト法、ゆっくり行うノンスラスト法、筋緩和を行うマニュピュレーション法などが主なものである。実技見学を行ったところ、頚椎に対する急激な回旋伸展操作を加えるスラスト法は極めて危険であるといえる。また、理学療法で用いられている手技に酷似したものもみられた。脊椎の位置異常のような構造的変化は、このような徒手調整という手技では治療し難く、かつ危険である。また仮に"サブラクセーション"というものがあるとしても、このような手技で治療するとすればそれは再発もし易いのではないかと考えられる。

エ)有効性

カイロプラクティックの作用機序については、"サブラクセーション"の除去による過敏性低下、痛みの域値上昇、交感神経緊張の緩和、などと説明されているが、有効性については施術者自身も経験的なもので、科学的理論付ができていないことを認めている。
適応症となるのは"サブラクセーション"により発生したと思われる症状であり、器質的疾患でも痛みの軽減が対象となったり、胃潰瘍等でも軽症例に対し、自然治癒力の向上を目的として適応となり得るとしている。効果判定は、患者の訴えの軽減、消失、姿勢の矯正、サブラクセーションの是正、運動性の改善により総合的になされるとしている。
しかしながら、適応の決定、効果の判定がいずれも術者の主観的要素が強く、医学的評価に重要な再現性がない点が問題である。

オ)危険性

カイロプラクティックの禁忌は、腫瘍性、出血性、感染性疾患等とされているが、術者によっては、リウマチ、筋萎縮性疾患、心疾患等も禁忌に含めている。しかし徒手調整の手技によって症状を悪化し得る頻度の高い疾患、例えば椎間板ヘルニア、後縦靭帯骨化症、変形性脊椎症、脊柱管狭窄症、骨粗しょう症、環軸椎亜脱臼、不安定脊椎、側彎症、二分脊椎症、脊椎すべり症などがあり、これらは禁忌の対象に含められるべきである。
禁忌の除外は、日本においては、各種医学的検査等の診断が術者自身では行えないので、問診が中心となる。多くの場合、他の医師の診断を受けているため、問題となることはないと主張している。また、施術の一般的危険性は医学的基礎がない人、またあってもカイロプラクティックの理論を学ばなければ危険であるとされている。

2)我が国における実害例の検討

本研究会では、カイロプラクティック理論に関する検討を行うとともに個別の具体的症例に基づき、被害の検討を行った。被害例については、日本臨床整形外科医会の協力を得、その会員から報告された症例を検討するとともに昭和60年度に日本整形外科学会により蒐集された症例の分析を行った。また、側彎症患者に対するカイロプラクティック施術の影響について、国立療養所村山病院整形外科外来通院の側彎症患者を対象としたアンケート調査により検討した。

ア)日本臨床整形外科医会からの症例

器質的障害による症状がカイロプラクティック施術により、明らかに発症・増悪した症例を以下に整理した。

<症例1>

・49歳、女性

(主訴)
頸の痛み
(現病歴)
カイロプラクティックにて、頸の痛みの治療を受けた。音がしないと3回矯正された後、痛みも軽減せず、頭重感、食欲不振、両手のだるさが出現。
(X-P所見)
生理的彎曲が逆転し、C5/6頂点の後彎変形があり、C3/4での軽度前方すべり、C5/6での著明な椎間板変性とC5下面C6上面における変形性変化が著明である。同レベルにおける椎間孔は、右側でやや狭くなっている。
(コメント)
本例は、変形性頚椎症が基礎疾患として存在していたものに、調整術により、神経根症状を招来したものである。
<症例2>

・80歳、男性

(主訴)
左下肢痛
(現病歴)
2日前から左下肢痛が出現し医療機関受診、加療を受けるも歩行痛が出現したため、友人の勧めでカイロプラクティック受診し加療受けたところ歩行困難となり、医療機関入院となる。
(X-P所見)
腰椎は傾斜し、多発性の椎間板変性があり、特にL4/5、5/Sに強く、L4/5椎間板腔は殆ど消滅している。前縦靭帯の骨化が著明で、椎体間の架橋形成が進行している。
(腰椎部脊髄造影像)
L4/5を中心とした造影剤の通過障害があるが、脊椎間狭窄の所見である。
(コメント)
本例は、変形性脊椎症による脊柱管狭窄状態にカイロプラクティックのために神経根症状の増悪をきたした症例である。
<症例3>

・61歳、男性

(主訴)
両上肢しびれ
(現病歴)
両下腿の痛み、しびれが出現、医療機関へ通院、加療を受け、症状改善。その後、カイロプラクティック療法を受け、両上肢のしびれも上行し医療機関再診となる。
(X-P所見)
頚椎C1~5の混合型後縦靭帯骨化があり、脊柱管の狭窄はC4/5で最高である。C5~7には前縦靭帯の骨化もあり、強直性脊椎骨肥厚症の合併が考えられる。
(コメント)
本例は、頚椎後縦靭帯骨化症に対しカイロプラクティックを行い脊髄症状を増悪したものである。
<症例4>

・79歳、男性

(主訴)
左肩痛
(現病歴)
10年前に左肩痛出現し、医療機関にて後縦靭帯骨化症の診断を受け加療していた。左下肢のマヒが進行したため、カイロプラクティック療法を受けたところ左上下肢完全マヒとなり、再度施術を受けたら四肢マヒとなった。膀胱直腸障害出現したため、医療機関再診、入院加療を受けるも改善が見られなかった。
(X-P所見)
C1/2レベルよりC4にかけての広汎な混合型後縦靭帯骨化が認められ、C5/6では著明な前縦靭帯骨化がありC4/5での異常可動性があった。脊髄造影では著明な脊柱管狭窄がある。
(コメント)
本例は、頚椎後縦靭帯骨化症による脊髄症に対し、カイロプラクティックを行い、器質的障害が極度に増悪したものである。
イ)昭和60年度に蒐集された症例の分析

昭和60年度に調査され、日本整形外科学会より報告された実害例54例について分析した結果、それらの病因性は下記のとおりに分類された。(表1)

表1 54実害例の分類

【1】積極的障害
A 発症・増悪
部位 傷害名 例数
頚部 脊髄損傷
7
神経根障害 4
捻挫 5
胸部 脊髄損傷 3
骨折(椎体) 2
骨折(肋骨) 1
腰部 馬尾損傷 5
神経根障害 5
骨折(椎体) 2
骨折(横突起) 1
骨折(関節突起) 1
捻挫 5
骨折 2
捻挫 1
化骨性筋炎 1
45
【2】消極的障害
A 治療の開始遅延、中断
側彎症増悪 7
B 治療機転の阻害
椎間板炎増悪 2

 

すなわち本施術によって発症、増悪させられた積極的障害例では、その傷害部位は頸・腰の脊柱部を主とし、股・肘関節部にもみられ、損傷された組織は脊髄・馬尾・神経根が最も多く、ついで関節(捻挫)と骨(骨折)であった。
本施術によって治癒機転が阻害された積極的障害例は、椎間板炎の2例にみられた。また、本施術によって医学的治療の開始が遅延または中断された結果、症状の増悪をみた消極的傷害といえる実害例が脊柱側彎症の7例にみられた。
以上の実害例から、カイロプラクティックの施術のもつ傷害性は明らかとなったが、さらにその傷害機序は下記のとおり整理される(表2)。

表2 実害例からみたその病因性
〔I〕積極的傷害A :(発症・増悪)
積極的傷害B: (治癒機転の阻害) 椎間板炎
〔II〕消極的傷害 : (治療の開始遅延・中断) 脊柱側彎症

すなわち本施術によって発症、増悪させられる積極的傷害としては、暴力的操作によって各関節を捻挫させ、脊椎・肋骨・大腿骨を骨折させる可能性があり、その結果、疼痛を惹起する。また、骨粗しょう症、OPLL、OYL、椎間板症、腫瘍などが既存すれば、暴力的操作は勿論、たとえ非暴力的操作であっても骨折やヘルニアを発生させる可能性があり、その結果、脊髄や神経根が損傷されて麻痺に至る。
椎間板炎などと知らずに、本施術を行えば自然治癒機転を阻害し、病変を増悪せしめることは明白であり、これも積極的傷害の範疇に含まれる。
一方、脊柱側彎症などに対し(甘言を弄し)施術することもまた、正当な治療を受ける機会を遅延もしくは中断させることによってそれだけ治療効果を損なうことになるため、消極的傷害に該当するといえよう。

ウ)側彎症患者の検討

脊柱側彎症患者300名を対象としてカイロプラクティックについてアンケート調査を行い、162名から回答が得られた。162名中11%がカイロプラクティックの施術を受け、12名が何らかの効果があったと回答してきた。効果の内容は肩、背中、腰の張り、痛みが施術後和らぐとの主観的効果であり、背中の曲がりがよくなったという回答はない。効果ありとして回答してきた1例を以下に示す。

13歳、女性、等発性側彎症

12歳のとき側彎を指摘された。その時、側彎度は37°であった。カイロプラクティックの施術を週1~2回約1年受けた。施術後は肩凝り腰の張りが和らいだ。13歳のとき側彎度は47°と進行していた。以後医療機関にて適切な治療を受けている。
当該患者の側彎は進行性であり、カイロプラクティック施術中にかなりの側彎進行がみられている。カイロプラクティックにより正当な治療の時期が遅延した消極的被害例である。カイロプラクティック施術により器質的側彎の改善は絶対得られない。施術後、背中、腰の張り、痛みが一時的に和らぐといった主観的評価をもって効果ありと判定している。

3)提言

既に1)において述べたように、カイロプラクティック理論、とりわけその中心的考え方となっている"サブラクセーション"については、医学用語でいうsubluxation(亜脱臼)とは異なるもので、諸外国における長年の研究にもかかわらず未だ科学的定義が不明確であると言わざるを得ない。一方カイロプラクティックの有効性については、近年、英国において発表された論文を始めとして主観的な「痛みの軽減」等の主として自覚症状に基づいた有効性を示すデータはみられ、我が国においてもカイロプラクティックの有効性を主張あるいは認める者がいることも事実である。米国においては、D.C.(Doctor of Chiropractic)と呼ばれる資格が各州毎に認められ、Medicareなどの医療保障制度の中にも、カイロプラクティック療法がその給付対象となっている。
しかしながら自然治癒やPlacebo効果を排した症状の改善、更には統計的処理に耐えられ、かつ再現性を有する客観的データに基づいた科学的評価が未だなされていないのである。カイロプラクティックが我が国に紹介されて以来長い歴史を持ち、民間療法として一部定着しているが、医学的評価を得るためには、「客観性」「再現性」といった科学としての最低必要条件を満足できなければならない。
以上述べたようにカイロプラクティックに関する理論およびその客観的有効性は現時点では明確にすることはできない。我が国の国民の健康保持増進に寄与する施術として社会的に認知されるには、今後、科学的評価を受ける必要がある。従って今後も有効性の客観的評価について慎重な検討を続けていく必要があると考える。しかしながら、本研究会としては、国民の健康を守る立場から、少なくとも、カイロプラクティックが国民の健康に与え得る危険・障害については、明確にする義務があると判断し、以下、その整理をする。これらの危険性については、カイロプラクティック施術者のみならず、国民一般にも、理解を求め、カイロプラクティックによる事故を未然に防止する必要がある。

ア)禁忌対象疾患の認識

既に述べたように、カイロプラクティックの禁忌は、一般には腫瘍性、出血性、感染性疾患等とされているが、術者によっては、リウマチ、筋萎縮性疾患、心疾患等も禁忌に含めている。しかし徒手調整の手技によって症状を悪化し得る頻度の高い疾患、例えば椎間板ヘルニア、後縦靭帯骨化症、変形性脊椎症、脊柱管狭窄症、骨粗しょう症、環軸椎亜脱臼、不安定脊椎、側彎症、二分脊椎症、脊椎すべり症などの明確な診断がなされているものは禁忌の対象に含めるべきでる。
従って禁忌対象疾患については、施術者のみならず、国民も十分認識しておく必要がある。

イ)危険な手技の禁止

既に述べたように、カイロプラクティックの手技には様々なものがあり、中には危険が手技が含まれている。とりわけ頚椎に対する急激な回旋伸展操作を加えるスラスト法は、患者の身体に損傷を加える危険が大きいので行うべきではない。

ウ)医学的治療の遅延防止

長期間あるいは頻回のカイロプラクティック施術によっても症状が増悪する場合はもとより、腰痛等の症状が軽減、消失しない場合には、潜在的に器質的疾患を有している可能性があるので、施術を中止して速やかに医療機関において精査を行う必要がある。スラスト法等による脊椎に対する損傷を積極的傷害とすれば、治療の遅延を招くような漫然とした施術は消極的傷害ともいえる。また患者の疾病の原因や症状発生の機序を独断的・誘導的に説明することは、同じく治療の遅延や、正しい医療に混乱を招く恐れがある。

エ)誇大広告の規制

近年我が国における、いわゆるカイロプラクティックブームは、有効性を誇張したり、また短期間でカイロプラクティックをマスターできるといった誇大広告により商業的に創り出された側面もある。医療および医業類似行為に関しては、医療法等により、その広告規制が厳しくなされているが、カイロプラクティックを始め、その他の民間療法については、規制が明確にされていない。しかしながら、国民の健康を守る観点から、誇大広告を厳しく規制する方策がとられるべきである。